中国最大のメディア企業『Bytedance』の超アグレッシブな拡大戦略

中国最大のメディア企業『Bytedance』の拡大戦略について考えてみます。

Bytedanceとは

Bytedanceは中国を拠点とする複数のメディアサービスを運営する巨大企業です。最大のサービスは、2012年にリリースされた『Toutiao(今日頭条)』で、AI技術を用いてウェブ上に存在する記事を独自アルゴリズムで評価・選定したものをアプリ上で配信するサービスです。基本的には自分たちでコンテンツを作ることはなくて、アグリゲーションしてくるサービスモデルです。コア技術は精度の高いアグリゲーションアルゴリズムなので、その技術に対するR&Dに積極的です。

最近はTikTokやMusical.lyなどのUGCショート動画プラットフォーム、TopBuzzやBuzzVideoなどの動画コンテンツアグリゲーションに展開して、メディア企業としてのカバー領域が拡大しています。

bytedance_products
Bytedance - Products and Services

事業の概要については他に詳細に解説している記事がいくつかあるので、以下のリンクからご覧ください。

Bytedanceの戦略考察

さて、Bytedanceの基本情報の解説は上の参考リンクに任せるとして、ここからは彼らの戦略を考察していきます。

なぜアグリゲーションアプリが成長したのか?

Bytedanceが名を挙げたきっかけはToutiaoの成功です。なぜToutiaoは成功したのでしょうか?
結論から言うと、スマホシフトによってユーザーの行動が変わり、それに最も上手く対応できたのがToutiaoだったからです。

スマホシフトにより最も変化したユーザー行動は「検索をしなくなった」ことです。PCではとりあえずGoogleやYahooのトップから検索していましたが、スマホではそれをせずに直接アプリを開くようになりました。

実際に2010年、Steve Jobsはカンファレンスでこのように述べています。

興味深いことに、スマートフォンユーザーはPCユーザーのようには行動しません。ユーザーはPCのときのように検索に時間を使わず、アプリで時間を費やしています。良いレストランを探したいときは、検索エンジンに「日本食 パロアルト」と入力する代わりに、Yelpを開くのです。

では、検索しないユーザーに対して、どうやって興味のある記事を届ければいいのでしょうか?ユーザーはアプリを使うのですから、自動で記事を選んで届けるようなアプリを作ればいいのです。

しかし、検索しないユーザーは興味のあるキーワードを入力して教えてくれません。そのため、ユーザーが閲覧した記事の傾向から興味のあるカテゴリを推定することが必要になります。これがパーソナライズ技術です。アプリ内でユーザーが行った全てのアクションをログとして蓄積し、その膨大なデータからどんな記事の興味を持つのかを予測するモデルを作るのです。

ここで用いられるコア技術はビックデータの処理技術と、予測モデルを作る機械学習の技術です。予測モデルの精度が高ければ高いほど、ユーザーに最適な記事を届けられるので競争優位性になります。これがBytedanceがAI技術に積極的に投資する理由です。

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なぜ動画のアグリゲーションに手を出すのか?

ToutiaoやTopBuzzなど、Bytedanceが運営するサービスではここ数年で動画コンテンツが急増しました。さらには、BuzzVideo(旧TopBuzz Video)のような動画特化のアグリゲーションアプリを別でリリースして伸ばしていく動きも盛んです。

なぜ記事のアグリゲーションから動画にシフトしてるのでしょうか?その理由は、ユーザーがスマホでも動画を積極的に見るようになったからです。

もともと、スマホで動画を見るといえばYouTubeくらいしか選択肢がありませんでした。そのYouTubeでさえも、3Gの回線は速度が遅く、1ヶ月に使えるパケット量も限られていたため、家でWiFiに繋いで視聴するような形でした。
しかし、次第に通信速度は速くなり、使用可能なパケット量も増えて、YouTube以外にもFacebookやTwitterなどSNSで動画を見ることが増えてきました。するとユーザーはスマホで動画を見ることに慣れてきて、それが当たり前になってきます。

この変化を「動画シフト」と呼ぶとすれば、Bytedanceは動画シフトに迅速に対応したのです。BuzzVideoにはTwitterやYouTubeに投稿された数十秒から数分程度の短い動画がアグリゲーションされて配信されています。面白い動画が見たいと思ったユーザーが真っ先に訪れるアプリをBuzzVideoにするのが彼らの狙いです。

私の見る限り、BytedanceによるBuzzVideoなどの動画アグリゲーションアプリは、動画を見るときの第一想起の位置を取りつつあると感じます。中国ではもちろんですが、日本でもBuzzVideoのTwitter広告やYouTube広告を見ることが多くなり、ユーザー数も急速に増加しているようです。

buzzvideo

なぜTikTokをはじめたのか?

さて、ここまでを振り返るとBytedanceの戦略は非常にシンプルです。スマホシフトでユーザーは検索をしなくなったので、コンテンツを自動でアグリゲーション・パーソナライズして配信してくれるサービスの需要が増えました。初めはテキストの記事だけでしたが、ユーザーが動画コンテンツを求めるようになったので、動画のアグリゲーションに手を出してきました。

しかし、最近のBytedanceはTikTokのリリースや、Musical.lyの買収などUGC動画プラットフォームに非常に積極的です。一見すると、これまでのアグリゲーションの文脈とつながらない動きのようです。

でもこれにはしっかりとしたロジックがあります。結論から言うと、「アグリゲーションできないところでユーザーが活動し始めた」というのが答えです。

詳しく説明します。
スマホシフトは終わり、スマホファーストの時代になりました。そのときに普及したのがInstagramやSnapchatのようなビジュアル特化型でかつユーザー投稿型のサービスです。
スマホのカメラを使って好きなようにコンテンツを作ってお互いに送り合うようなコミュニケーションが生まれるようになりました。Snapchatのように、ただ写真を取るだけでなく写真を加工できる機能を使えば、面白いコンテンツが簡単に作れるのでよりハードルは下がります。

snapchat_filters

この文脈で登場したのがFlipagramやMusical.ly、日本ではMixChannelのような手の込んだショート動画を作って投稿できるUGCプラットフォームです。軽快な音楽をBGMにできて、数秒の短い動画なので気軽に作ることができます。インフルエンサーと呼ばれるようなプチ有名人ユーザーも登場し、それに憧れて始めるユーザーがさらに増えるというサイクルができてきます。

Bytedanceにとって問題なのは、これらのプラットフォームのコンテンツはアグリゲーションできないことです。TwitterやYouTubeなどのオープンなサービスはAPIを開放していますが、ショート動画アプリはそのアプリの中でしかコンテンツが見られません。魅力的なコンテンツを配信できなければ、ユーザーがショート動画に流れていってしまいます。

この問題に対する彼らの答えは、買収と自社展開 でした。ToutiaoはUGC型ショート動画でトップだったFlipagramとMusical.lyを買収し、さらに自社サービスとしてTikTokやHypstarをリリースしました。

自社の主要プロダクトが時代遅れになる脅威を前に、超アグレシッブに買収と自社開発を進めて芽を摘んでいったのです。
最近では、TikTokとMusical.lyを融合して一つのプラットフォームとしていく意思を示しています。

tiktok

アグリゲーションアプリでUGCショート動画を活かす

UGCのショート動画は、ユーザーが今一番面白いと思ってるコンテンツです。つまり、ショート動画を配信するとそのメディアを見に行くユーザーが増えてメディアとして拡大させることができます。

実際に、最近はToutiaoやBuzzVideoなどアグリゲーションが主なアプリにタブが新設され、TikTokやMusical.lyやHypstarのコンテンツが配信されています。
これによりユーザーの滞在時間を伸ばして、アグリゲーションアプリを時代遅れにせずに価値を高めていこうとしているはずです。

toutiao_ugc

今後の予想

Bytedanceの戦略を見ると、記事アグリゲーション→動画アグリゲーション→UGC型ショート動画プラットフォームと、時代の流れやユーザーの興味の変化に乗り遅れまいとする強い意気込みを感じます。

では、今後はどのような動きがあるでしょうか?私の予想では2つの領域に積極投資すると思っています。

ライブ動画配信

Instagramでも機能が追加されたように、どんな人でも気軽にライブができるようになりました。実際、Instagramライブで人気になったインフルエンサーが出てきたり、ライブ配信に特化した『LINE LIVE』や『17 Live』のようなサービスも成長しています。また、国内ではMixChannelのように既存のショート動画からライブ動画への流れを見て、"ライブ動画シフト"を進めているサービスもあります。

おそらく、ショート動画のときと同じく、買収と自社展開を進めると思います。ライブ配信特化サービスの有力どころを買収し、同時に自社でライブ配信アプリを開発するはずです。集まったコンテンツをアグリゲーションの方でも配信して相乗効果を生む仕組みを作るでしょう。

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クイズショー

2017年の後半から、USで『HQ Trivia』というサービスが流行りました。特定の時間にクイズショーが始まり、クイズにリアルタイムで答えていって最後まで残ると賞金が手に入る、というアプリです。
あまりにも伸びていたので、世界中でコピーサービスが生まれました。日本ではMirattiveの『ミラティブQ』や、17 Liveの『17Q』が登場しました。

このアイデアは非常に画期的で、アクティブユーザーの瞬間最大風速を作り出すことができます。ユーザーも賞金獲得という強烈なインセンティブを提示されるので、熱量が高いです。

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ちなみに、実はこの予想はもう現実になっていて、2018年2月5に現在、BuzzVideoには『Beat The Q』というボタンが出現しています。Bytedanceがこの流れに乗らないはずはないですよね。

まとめ

スマホはとにかく可処分時間の奪い合いです。Bytedanceは可処分時間を獲得するために、既存のサービスの形にとらわれずにサービスを変化させたり、リスクをとって投資をしています。
イノベーションのジレンマに陥らないためには、これくらいアグレシッブに動かないとダメだと強く感じました。

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